Interviewインタビュー

映画『お父さんと伊藤さん』
上野樹里 × 藤 竜也インタビュー

”伊藤さんってさ、彩さんについている妖精って感じがするよね(笑)”

中澤日菜子の同名小説をタナダユキ監督が映画化した『お父さんと伊藤さん』が10月8日(土)より公開されている。きれいごとだけで済まされない父と娘の関係を中心に、「家族」という存在を鋭くも温かな視点で描く、新たな家族の物語。息子夫婦の家を追い出されたお父さんが、娘の彩と20歳年上の彼氏・伊藤さんが同棲するアパートへ突然やってきて、3人の共同生活が始まる—。3人の軽快な会話の掛け合いは、くすりとした笑いを含みながらも時に涙を誘う展開へと導く。作中で親子を演じた、上野樹里さんと藤竜也さんに本作について話を伺った。

―彩を演じてみていかがでしたか?

上野 30代目前ということもあって、役への向き合い方やアプローチの仕方が今までとは少し違い、新たな挑み方だったかなと思います。全国で大々的に公開する映画ではないということで、あまりプレッシャーを感じずに撮影していたんですけど、いざ完成すると取材が当初予定していた3倍くらいの量になったり、地方の舞台挨拶もやらせていただいたり、だんだん膨れ上がってきて、今になって「大丈夫かな」って不安になっています(笑)。でも、試写を観た映画関係者の方々が褒めてくださったということは、きっと皆さんの心にも何か残るような作品になっていると思うので、観ていただけるのが楽しみですね。

―完成した作品をご覧になった感想を教えてください。

上野 面白かったです。初めて観る試写は関係者の方しかいないですし、楽しむというよりチェックするという感覚でいつも観ているんですけど、今回は単純に楽しんで、いち観客として観れました。

―役作りにおいて、タナダユキ監督とはどのような話し合いをされましたか?

上野 「彩の衣装はどんな感じだと思う?」って監督に聞かれたところから始まって「彩はこんな感じかな」っていうイメージを提案していきました。あとは、撮影前に監督とご飯に行った時に私自身の近況報告から、「彩はどんな女の子だろう」という役柄の話までいろんな話をして。そこからディテールを掴んでいって、撮影に臨んだという感じですね。監督の今までの作品を観ていて、役者さんのお芝居がすごく丁寧に映っていたので、現場での話し合いがたくさんあるのかなと思っていたんですけど、現場で役柄や演出について細かく話すことは特になかったです。なるべく手を加えず、役者から生まれるありのままのお芝居を尊重してくださって、その良いところを掴む!って感じ。脚本とスタッフ、キャストとロケーションが決まった時点で良いものが生まれるのは必然というか、このスポットで釣りをすればじっとしていてもマグロが釣れる、みたいな(笑)。監督の中ではそんな感覚だったみたいですね。たくさんシーンを割って撮影することもなく、カメラもあまり意識せずに演技ができる現場でした。

 カット割というのは監督の言語だよね。どこがどうって言えないものなんだけど、タナダユキさんの描き方、撮影の仕方、空気でこの作品の世界観が創り出されていますよね。

―本作では、きれいごとだけでは済まされない家族の問題が描かれています。

 家族の良いところだけじゃなくて面倒くさいところ、あまり起こってほしくないようなことを描いているよね。その時のイライラしている感情とか他人には決して見られたくないところを描いているからこそ、リアリティがある作品になっていると思う。でも、そこをライトに描いて、楽しく観せちゃうってところがすごいよね。両親に3年以上も連絡していないなんていう人は、多分いっぱいいると思う。作中のような状況になった時に、あまり連絡を取っていなかったゆえの気まずさは、誰でも想像できると思うんだよね。皆、家族というプロセスを知っているわけで、だからこそこの作品は、そういう状況になってしまった彩がどうするんだろうっていうのが気になって、面白いんだと思いますね。

上野 最終的に頼れるのって家族だから、この問題から逃げるわけにもいかない。かと言って、一緒に住める余裕もなくて、そうやってお父さんの行き場が失われていく…。彩がお父さんの良いところも含めてもっと知っていれば、尊敬もできただろうし、接し方も変わっていたと思うんですけど、口うるさいという一面だけを見てしまっているから彩の中でお父さんの悪いイメージばかりが膨らんでいって。でも、お父さんと暮らして向き合っていく中で、徐々に「こんな一面もあったんだ」って知って、彩の中でのお父さんのイメージが変わっていくんですよね。

―“楽しく観せる”要素として、リリー・フランキーさん演じる彩の彼氏・伊藤さんが大きな存在となっていますよね。

上野 この作品を観た人たちから「伊藤さんかっこいい!」ってすごくモテモテで、私は「そんなにかっこいいですかね?」って言っていたんですけど(笑)。伊藤さんは20歳も離れているけどおじさんって感じじゃなくて、家庭菜園をしたり朝ご飯を作ってくれたり、10代でお母さんを亡くした彩にとっては、甘えられるお母さんみたいな感じ。でも、注意というか他人が言いにくいようなことでもちゃんと諭すように言ってくれる存在で。まぁ、それを言われて彩はふてくされてしまうんですけど(笑)、そんな彩のことも伊藤さんは可愛いって思ってくれているんですよね。彩も伊藤さんと一緒にいて楽なんだけど、ちゃんと尊敬している気持ちを持っていて。だから2人は良い関係でいれるんだと思います。

―特に印象に残っているシーンは?

上野 彩が聞いたわけじゃないんですけど、離婚を経験している伊藤さんに子どもがいるかどうかという話になるシーンがあって。伊藤さんから「子どもがいたら面白かったかもしれないけど、いないから」って何気なく言われた時に、「へぇ、そうなんだ」って彩は別に気にしてないよって顔をしながら返事をするんですよね。本当はすごくホッとしているくせに(笑)。素直になれない、その背伸びしているようなところも微笑ましいなって思いますね。

 伊藤さんってさ、彩さんについている妖精って感じがするよね(笑)。

上野 妖精ですね。何者か分からないし、いつもふわふわ、ニコニコしていて良い人。でも、過去が謎だったり、話してみると意外とブラックだったり(笑)。彩がお兄ちゃんと伊藤さんと一緒に、お父さんがいる実家に行くシーンがあるんですけど、皆真剣な話をしているのに呑気に家の中を見て回ったり、「これ、いくらで売れるんだろう」とかお金の話をしてみたり、大変な状況の時にそんなことを考えているのって結構ブラックな性格なのかなって思って。あまりストレスを感じることなく、世の中を上手に生きていく人なんだろうなって思いましたね(笑)。

―最後に一言お願いします。

上野 表向きは笑っていても、家ではいろいろな問題を抱えていたり、自立して家を出て行くと、今まで育ててくれた両親を顧みず自分たちの幸せばかりを考えてしまったり…、そういうことってあると思うんですよね。作中では途中から頑固なお父さんが可愛く見えてくるというか、なんか切ない気持ちになって同情しちゃう。でも、観てる方の気持ちを暗く、重くするわけじゃなくて、絶妙な空気感で描かれています。彩とお父さんのギスギスした関係が愛しく思えて、ふとした時になんかグッとくる、そんな作品です。この作品で描かれているようなシチュエーションじゃない、どんな方にでも共感していただけたり、楽しんでもらえる作品になっていると思いますので、ぜひ観てください。

Profile

<上野 樹里>
1986年生まれ、兵庫県出身。『ジョゼと虎と魚たち』(03年)で映画デビュー。初主演映画『スウィングガールズ』(04年)では日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し注目を浴びる。主演ドラマ「のだめカンタービレ」(06年)では第51回ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演女優賞。2007年度エランドール賞 新人賞を受賞。以降「ウロボロス」、「家族ノカタチ」、『青空エール』など話題作に数々出演。

<藤 竜也>
1941年生まれ、中国・北京生まれ。日活入社後、『望郷の海』でデビュー。71年の退社まで数多くの作品に出演し、76年公開の『愛のコリーダ』で第1回報知映画賞主演男優賞を受賞。『龍三と七人の子分たち』(15年)では第25回東スポ映画大賞主演男優賞の受賞など話題を呼んだ。

Storyストーリー

©中澤日菜子・講談社/2016映画「お父さんと伊藤さん」製作委員会

映画『お父さんと伊藤さん』

【監督】タナダユキ
【原作】中澤日菜子「お父さんと伊藤さん」(講談社刊)
【出演】上野樹里、リリー・フランキー、藤竜也 ほか

私、彼氏、お父さん。今日から三人で暮らすことになりました。

ある日、息子夫婦の家を追い出されたお父さん(藤竜也)が、ボストンバッグと謎の小さな箱を持って、20歳年上の彼氏・伊藤さん(リリー・フランキー)と同棲する娘・彩(上野樹里)の家にやってきた。爆弾のように激しい性格のお父さんは、彩たちの穏やかだった日常を一変させたが、それでも三人がひとつの家族のようになりかけた矢先、「しばらくでかける」と情けない文字で書かれた置き手紙を残してお父さんがいなくなってしまう—。

映画『お父さんと伊藤さん』の公開情報

公開日 公開中
監督 タナダユキ
原作 中澤日菜子「お父さんと伊藤さん」(講談社刊)
キャスト 上野樹里、リリー・フランキー、藤竜也 ほか
公式サイト http://father-mrito-movie.com/