Interviewインタビュー

映画『二重生活』
門脇 麦インタビュー

"いかに自分と向き合うことが苦しいことなんだなって
結局他人と向き合うことでしか自分のことさえも認識できない"

直木賞作家・小池真理子が「文学的・哲学的尾行」という行為をモチーフに創作した長編小説「二重生活」。その原作を、本作が映画初監督となる映像作家・岸善幸さんが大胆に脚色し、独特の世界観で映画化した。まるでドキュメンタリーを見ているかのようなリアルな映像が繰り広げられる、これまでにない“新感覚心理エンターテインメント”。本作が誕生した軌跡を、単独初主演を務めた門脇麦さんに伺った。

―まず初めに完成した作品をご覧なっていかがでしたか?

今まで自分が出演した作品ってどうしても客観的に観れなくて。自分の粗探しをしてしまったり、台本は何回も読んで現場の状況も覚えているので、物語として観れないんですよね。でも、今回の作品はなんででしょうね、台本を読んでも撮影していても、どんな作品になるのかが全く想像できなかったので、確実に台本を超える仕上りになっていました。自分が出ている映画じゃないような新鮮な気持ちで観れたというのが大きかったです。

―今回、撮影方法が独特だったとお聞きしました。

そうですね。監督、カメラマンがドキュメンタリーを撮られてきた方で、シーンの状況説明だけでリハーサルもなく「では、やってみましょうか」とカメラを回したシーンも結構あります。揺れている感じの映像だったと思うんですけど、基本的にカメラも手持ちで。監督によって違うと思うんですけど、監督の方って自分の想像する画や芝居を撮りたいって感覚があると思うんですね。でも、岸さんはリアルを求める方な気がして。役者の素が映っちゃってもいいから、ふと出てしまった感情や表情、芝居からはみ出した瞬間をキャッチしたいっていう感覚を大切にされているんだろうなぁって感じました。カメラマンの夏海さんも動物的嗅覚が強い方で、自分が興味あるものにカメラを向けるという感覚に素直に体を従わせている方な気がしました。例えば会話をしているシーンで私の顔を撮って欲しいという監督の指示があっても、後ろの気配が気になったらガッて後ろを向いちゃったり、また私の顔が見たいなと思ったら私を撮ったり、何気なく動かしている手が気になったらそこに寄ってみたり。面白そうだなって思ったものを直感的に撮るというか、そういうカメラマンとご一緒するのは初めての体験でした。

―はじめは戸惑いもあったのでは?

そういう意味では普通の撮影と違いましたけど、実はそんなに驚きはなくて。私の中でいつも演技をしたくないなって気持ちがあるんですね。演技していると感じた途端恥ずかしくなってしまって。だから例えばご飯を食べているシーンだったら、「食べている演技」じゃなくて普通に食べていたら演技じゃなくなるというか。なかなか出来ることではないんですけど、そういう境地にいけたらいいなって思っていて。今回の岸さんの撮り方は、いつも私が立とうとしているそのラインがはじめから用意されていて。「出会えた」じゃないですけど、「わかってくれる人がいた」って感覚が強かったですね。嬉しかったですし、幸せでした。もちろんその役柄にもよりますし、コメディとかあまりやったことがないのでそういう作品にはリアリティとはまた別の面白さがあると思うのですが、基本的にはフィクションの中でノンフィクションの部分がないとやっている意味がないと思っているので、そこは目指しているつもりでいます。

―恋人・卓也役を演じられた菅田将暉さんも現場での雰囲気がナチュラルすぎて、寝るシーンで本当に寝てしまったというエピソードを話されていましたが、それほどリアリティにこだわられた現場だったんですね。

普通カメラは固定して撮るので、ここからここまでという限られた範囲があるんですけど、今回は手持ちで撮影されていたので自由に動けるっていうのもあって、お家全体でどこで何しても良かったんですよね。それってもう普通の生活と一緒じゃないですか?だからそういう意味ではすごくリアルでしたし、自由でした。でも自由ってこっちが全て責任を持たないといけないので、私は苦手だったりするんですけど(笑)。シーンとして台本上は終わっていてもなかなかカットがかからないからアドリブで続けないといけなくて。多分監督は何かが出るのを待ってるんですよね。でもそういうの私すごく苦手なので、「もう何も出ないから早くカットしてほしい」って思いながらずっとじっとしていました(笑)。もうここまでくるとそれこそ役なのか素なのかもわからなくなっていましたね。

―演じられた「珠」とはどんな女性だと捉えられていますか?

自分が傷つかないように自分を傷つけるいろんなことを除外して全てに蓋をする。だんだん自分の感情にも麻痺していって、いろいろな物事をリアルに感じられなくなって、人とも関わらない。そんな恐怖感や孤独感がずっとつきまとっている女の子だと思いました。我慢して我慢して我慢し過ぎて、今自分が我慢しているのかさえもわからない、みたいな。私も割と我慢しているつもりはなくても後から「あ、我慢してたんだな」って気づくことが多いので、そういうところは共感できました。でも、あとはわかんないかな。珠はいつもモヤモヤしていて、体内に爽やかな風が流れていない感じ。私はどちらかと言うとハッキリした性格で、あんまり悩んだり振り返ったりしないので、そこは正反対だと思います。

―この作品では「珠の心の成長物語」が描かれていますが、その過程を演じる上で意識されたことはありますか?

順撮りじゃなかったのであまりそこは意識していなかったかもしれないですね。実は、菅田くんとのシーンは全部1、2日目で撮っていて。だからラストのシーンも最初に撮っていたんですけど。尾行は珠にとって非日常なことで、日常が描かれるシーンって卓也との生活や教授との会話だけなんですよね。それを1、2日目で撮れたっていうのは大きくて。ベースじゃないですけど、こういう子が尾行するとどうなるかっていうのが何となく掴めた状態で尾行のシーンが撮影できたので良かったです。普段、基本的に役を引っ張ることはなくて、どんなに苦しいシーンを撮った後でも終わったらけろっとしているんですけど、今回は自分自身を持ち込もうって決めて撮影に臨んだんですね。ずっと撮影しているような、していないようなそんな感覚でずっと苦しかったです。ひとつひとつのシーンに目指す地点を決めたり、共演者の方と考えをすり合わせる作業をしなかったので「不安だなぁ」と思いながらやっていて。でも尾行のシーンは、とりあえず1回自分のことは置いといて見ていればいいだけで。その私が珠から離れて尾行する演技だけに集中できる開放感と、珠も日常から離れて尾行に集中して1回自分のことを忘れられる開放感は重なっているなと思いました。台本を読んだ時は、あんまり成長物語って感覚がなかったというのもあって、演じる上でのプラン立てとかは考えてなかったんですけど、演じる上で重なったものが自然とリンクして出てるんじゃないかなって思います。例えば尾行の対象が苦しい状況になって自分も苦しくなる、みたいに他人に同情したり共感したりすることって実はすごく楽で。いかに自分と向き合うことが苦しいことなんだなってことがわかりました。他人と距離を置いていても、1人で生きていくには自分と向き合うために他人と関わらないといけなくて。じゃあ、自分と向き合うことってどういうことかっていうと、結局他人と向き合うことでしか自分のことさえも認識できない、なんかそういうことを考えさせてくれる映画だと思います。

Profile

<門脇 麦>
1992年8月10日生まれ、東京都出身。2011年にデビュー後、東京ガスのCMで披露したクラシックバレエで注目を浴びる。映画『愛の渦』では大胆な濡れ場に挑戦し、大きな話題を呼んだ。連続テレビ小説「まれ」やドラマ「お迎えデス。」など様々な作品に出演し、今後の活躍が期待される若手女優の一人。

Storyストーリー

©2015「二重生活」フィルムパートナーズ

二重生活(R15+)

【監督・脚本】岸善幸 
【原作】小池真理子「二重生活」(角川文庫)
【キャスト】門脇麦、長谷川博己、菅田将暉、リリーフランキーほか

理由なき尾行、はじめました。

大学院で哲学を学ぶ珠(門脇麦)は、同棲している恋人・卓也(菅田将暉)と穏やかな日々を過ごしていた。ところが、担当教授の篠原教授(リリー・フランキー)から、修士論文の題材としてある1人の対象を追いかけて生活や行動を記録する“哲学的尾行”の実践を持ちかけられたことでその生活が一変する。半信半疑で始めた隣人・石坂(長谷川博己)の尾行だったが、彼の秘密が明らかになっていくにつれ、珠は異常なほどの胸の高鳴りを感じていく—。

二重生活(R15+)の公開情報

公開日 2016年6月25日(土)
監督・脚本 岸善幸
原作 小池真理子「二重生活」(角川文庫)
キャスト 門脇麦、長谷川博己、菅田将暉、リリーフランキーほか
公式サイト http://nijuuseikatsu.jp
劇場 神戸国際松竹 ほか