Interviewインタビュー

映画『俳優 亀岡拓次』
安田 顕 インタビュー

『俳優 亀岡拓次』という映画なんですけど、観終わった後に感じたのは“人間 亀岡拓次”だということ。

人気演劇ユニット「TEAM NACS」に所属し、ドラマ『下町ロケット』をはじめ、その変幻自在の芝居で多数のドラマや映画に出演する俳優・安田顕さん。味のあるバイプレーヤーとして浸透する安田さんが挑む主演作『俳優 亀岡拓次』、役柄はなんと“脇役俳優”。依頼があればどんな役でも演じ、地味な私生活を送る亀岡という役柄について、同じ俳優という目線から話を伺った。

―“脇役俳優”という役柄で主演。なんだか不思議な感覚がありますね。

僕は普段がずっと脇で、今回も主演だって言われても撮影自体は脇役をやっていますからね。そういう部分ではすんなり入ることができてありがたかったですね。

―今回は初の全国規模での主演作ですが、お話を聞いたときはどう思われましたか?

『亀岡拓次』という映画の主演という話が来てると言われた時は、原作を読まず間髪入れずに「ハイやります」って言う自分がいましたね。嬉しいなぁと思って。その後原作を拝読して、面白いものだなと感じ、亀岡に自分に近しい部分もあったので「是非お願いします」という思いになりました。

―亀岡さんみたいな欲の無い俳優って実際にいるんでしょうか?

いないんじゃないですかねえ(笑)。原作はこの映画にも出演されている宇野祥平さんがモデルのひとりで、宇野さんから聞いたエピソードも盛り込んでいらっしゃるみたいですね。宇野さんに欲があるかどうかは宇野さんに聞いてみないと分からないですけど(笑)。亀岡について、『水曜どうでしょう』なんかで見る「素の状態に近い安田顕そのまんま」って言う方もいらっしゃるんですけど、僕も煩悩は百八つは絶対あるはずだから、そういう欲の無さという部分では違いますね。

―逆に亀岡とご自身が重なる部分は?

お酒好きというところですかね。ちょうど昨日も北新地のスナックで一人で飲んでいました。お店の方は俳優だって途中で気付いてくださって、「あ〜誰だっけ見たことあるんだけど」ってそれで30分かかったもんですから。映画の中でも一人で飲んでる亀岡が「ボーリング球の販売員です」ってお店の人に嘘をつくんですけど、その気持ちが昨日ようやくわかりました(笑)。

―役を演じている亀岡と演じていない亀岡で切り替えはされていましたか?

切り替えはしていなかったです。亀岡さんが演技の上手い下手で求められている方じゃないというのが自分の中にありまして。『俳優 亀岡拓次』という映画なんですけど、映画を観終わった後に僕が感じたのは“人間 亀岡拓次”だということ。彼の日常に流れている時間というのは、このご時世だとちょっと遅いと思うんですよね。日常ってせわしないじゃないですか。私も昨日御堂筋の渋滞でイライラしちゃって、最終的には「取材の時間に間に合わない」って途中で車降りて歩いたっていうくらい、せっかちなんですよ。でも彼はそうじゃない。きっと彼が重宝がられているものって、彼の中に流れているものだと思うんですよ。自分が前に出たいと思う人間って個性を出そうとすると思うんですけど、彼の場合は没個性が個性になっているんだろうなって感じました。

―“俳優 安田顕”が出てくる部分などはありませんでしたか?

横浜監督が狙われていることで、そういう部分はきっとあったと思います。ただ、例えば『水曜どうでしょう』などでなら素に近い自分だと思うんですけど、何かを演じるなら『下町ロケット』だったり『問題のあるレストラン』のオカマちゃんだったりでまた違うアプローチがあるので、没個性な亀岡拓次とは違うと思います。だとしたら俳優という視点ではなく、「自分は素の時にこういう行動をするんだろうな」とかいうようなことからアプローチした方がいいのかなと。そこから亀岡拓次に近づいていくことなんだろうなとは思いました。

―世界デビューのオーディションでは初めて亀岡が自分の欲を見せたように見えました。

自分自身ではそうは感じてなかったですね…。正直に言えば、割とノープランなんでしょうねぇ(笑)。すいません…。例えば砂漠のシーンでは「ただただ歩いてください」って横浜監督に言われて、十分に意味が理解できずにやっていました。でも実際に映画として見ると何かしら感じますよね。横浜監督の凄さを改めて感じました。こないだ舞台挨拶をさせていただいたんですけど、撮影時の自分の態度を謝りましたね。「すいませんでした面白かったです」と。

―三田佳子さんや山﨑努さんら大御所の方と共演した感想は?

本当に光栄でした。三田佳子さんは目を合わせて話してくださるんですけど、瞳が澄んでるんですよ。無垢な少女にも、妖艶な女性にも如何様にも見える、とにかく引き込まれるんです。山﨑努さんとのシーンでは、濠に落ちたずぶ濡れの自分が見上げると、真っ青な空と橋の上の山﨑さんが見えて、「お疲れさん」って言ってくださる。そうしたらその言葉が自分の体内にスーッと染み込んでいくんですよ。そしてじわ〜っと涙が出てきたんです。こういう力を持っている方々が“俳優”“女優”という肩書きを持てる方なんだなとすごく実感しました。それは自分にとっての財産になりましたね。

―スタッフロールで流れるシーンも印象的でした。

今回の映画で泣く泣くカットされてしまったシーンというのが、本編が終わった後にスタッフロールと共に流れるんです。僕の受け取り方なんですけど、亀岡拓次という人間は作品に参加した時に、ふたを開ければ自分のシーンが無いってことも味わっていると思うんです。ワンシーンだけ出演をされている役者さんって、そのシーンがカットされてしまうと無き者になっちゃうと思うんですよ。そういう役者さんたちのシーンを最後に入れてくださっている。そこに「あぁ、これが亀岡拓次という人間の映画なんだ」ということをすごく感じて嬉しかったです。あのシーンの出演者はあのシーンがカットされればいないことになってしまうから。それをそういう形で盛り込んでくれたという心情が凄くわかりました。みんな言わないだけで、脇役は出演シーンがカットされないように色々と工夫をしていると思うんです。でもそこが亀岡には無いんですよね、きっと。

―今年はTEAM NACSも結成20周年という節目となりますが、役者人生を振り返ってみていかがですか?

全然振り返れないですねぇ。今のことで精一杯、『亀岡拓次』で目一杯です。ひとつひとつ積み重ねていって、いつか振り返れるといいなぁと。とにかく「これが映画だ」と思える作品に出会えたことに感謝ですし、手前味噌なんですけど「これは面白い」と思えた、これからの日本映画でもっと有名になっていくであろう横浜聡子監督のこの作品をもっとたくさんの方に観ていただきたいという思いでいっぱいです。

―ちなみに、TEAM NACSのメンバーからの感想は?

何も聞いてないです。まだ公開前ですし、公開したら是非お金を払って観ていただきたいですね(笑)。

Profile

<安田 顕> Ken Yasuda
1973年12月8日生まれ。演劇ユニット「TEAM NACS」メンバー。北海道のバラエティ番組『水曜どうでしょう』で人気を博す。近年の出演作はドラマ『問題のあるレストラン』(15)、映画『龍三と七人の子分たち』(15)、ドラマ『下町ロケット』(15)など多数。舞台、ドラマ、映画を中心に俳優として全国的に活動中。

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©2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

俳優 亀岡拓次

【監督・脚本】横浜聡子
【原作】戌井昭人
【出演】安田顕、麻生久美子、宇野祥平、三田佳子、山﨑努 ほか

亀岡拓次(安田顕)は泥棒、チンピラ、ホームレスなど何でも演じる脇役俳優。監督やスタッフから愛され、現場に奇跡を呼ぶ?と言われる“最強の脇役”。37歳独身、プライベートは一人お酒を楽しむ地味な生活。ある日、ロケ先で初めて訪れた居酒屋「ムロタ」で美しい若女将・安曇(麻生久美子)と出会い、恋をしてしまう。世界的巨匠からもオーディションの声がかかり、人生の大きな転機が訪れるのか…?

俳優 亀岡拓次の公開情報

公開日 2016年1月30日(土)
監督・脚本 横浜聡子
原作 戌井昭人
出演 安田顕、麻生久美子、宇野祥平、三田佳子、山﨑努 ほか
公式サイト http://kametaku.com/