Interviewインタビュー

映画『悼む人』
高良健吾さん×石田ゆり子さん×堤幸彦監督 インタビュー

“死に対する不条理感や整理されない気持ちなどを優しく癒してくれる、そんな映画です。”

第140回直木賞を受賞した天童荒太のベストセラー小説の映画化『悼む人』が2月14日に公開された。主人公・坂築静人(さかつきしずと)を演じる高良健吾さん、奈義倖世(なぎゆきよ)役の石田ゆり子さん、堤幸彦監督に本作への思いについて話を聞いた。

―『悼む人』の映画化にあたってのお気持ちは?

石田 今となってはえらいことをしてしまった…と思っているのですが、原作を読んだ時に、「これは絶対映画化されるに違いない!」と思って、何年も前に天童荒太さんに「映画化の際には倖世を演じさせてください」と手紙を書いたんです。すごく難しい役なんですけど、どうしても演じてみたくて。自分で手を挙げたからには、悔いが残らないようにやりました。初めて完成した映画を観た時は、客観視できなくて…。「大丈夫かな」って自分の演技ばかり観てしまいました。この作品は本当に壮大な映画で、参加できたことを幸せに思います。
高良 僕は、静人を演じる上で静人の気持ちになりながら原作を読みました。見方によれば、静人がしていることは恩着せがましい行動だったり、ただの痛い奴に見えてしまう。それをどう表現したらいいだろうって考えましたね。
堤監督 私は今年還暦ということもあって、今までいろんな人の死を目にしてきました。人が死ぬということに関して、どこかずっとモヤモヤしている気持ちがあって。この作品に出会って、亡くなった方のことを良い意味で覚えておく。それは、僕にとって必要なことだったと感じました。この作品に関しては、監督なんだけれども、映画を観ている時は観客の立場になってしまっていますね。

―堤監督は本作映画化の前に舞台化もされたとのことですが。

堤監督 舞台は想像力で観るものなので、わざと線・光・影・最低限の写真で表現して、観ている人が言葉と言葉の間に出来事を想像できるように演出しました。舞台をやってみて「この作品をもっと伝えたい」と思い、映画化を天童先生にお願いしました。映画では、あたかもそこに住んでいる状態、あたかもそこを旅している状態など、具体的に描くことを徹底しました。あとは、木があり、山があり、桜がある。そんな日本人の心の中に深く刻まれているような、日本的な風景を大切にしましたね。性的なシーンや暴力シーンもたくさんあるんですが、そういうシーンも逃げずに真っ向から描こうと思いました。死者に対する思い、異性に対する愛情、家族の絆、母の愛。そういったものが観る人それぞれに浮かび上がるような作品にしたかったんです。

―本作は「人の死を悼む」という深いテーマで、役作りも大変だったのでは?

高良 似たような人はいっぱい居ても、全く同じ人はいない。こんな役だから何かするっていう風に、自分の中で演じ分けることはないですね。何年か前からそう考えるようになって、どんな役を演じるのも楽になりました。『悼む人』は、役者として10年目の最初の作品だったので、自分自身気合は入っていたと思います。この1シーンだけで何かできるんじゃないかって考えて、1シーン1シーンに全力で挑みました。そのシーンに本気で向き合ったらどうなるか、というのを精一杯やった作品ですね。

―実際に演じてみていかがでしたか?

高良 撮影していく中で慣れはどうしても出てきてしまうんですけど、そういうのを捨ててカメラが止まったらその気持ちを終わらせる、ということを意識しました。その都度、目の前にある命を悼むことだけを考えて演じましたね。映画を観てしまった今、もう一度静人を演じることはできないと思います。観てしまってからだと欲もでるだろうし、静人の思いを伝えることばかりを意識してしまって、本当に描きたかった静人は演じられないと思います。
石田 監督も還暦で、高良くんも10年目。2人とも記念すべき作品だったんですね。私だけ何にもなかった…。
堤監督 でも石田さんは立候補ですからね!
石田 それを言うのは本当やめてください…(一同笑)。取材でこのお話をする度に、私はこんな難しい役を自ら依頼するなんて、何て大胆な行動をしてしまったんだろうって思ってます…。

―本作ではやはり静人が悼むシーンが一番印象的でした。

堤監督 動きの強弱やまろやかさなどは指示しましたが、ポーズは僕が決めたのではなく、小説に表現してある言葉を再現しています。
高良 現場の隅っこで細かい動きを監督と2人で練習しましたね。

―石田さんも最後に悼むシーンがありましたが、一緒に練習されたんですか?

石田 練習はしなかったです。ほとんど見よう見まねでした。この作品は順撮りだったので、最後の方での撮影だったんですね。静人をずっと見てきた倖世と同じように、私も高良くんがやっているのを実際に見てきていたので、同じ気持ちでできたと思います。実際やってみると、不思議と本当に“あなたのことを心にしまっておきます”っていう気持ちになれましたね。寝袋に入って寝ている静人を背に、悼むポーズをするシーンだったので、撮影前に高良くんが寝たまま「こんな感じでやる」っていうのを少しだけ教えてくれました(笑)。

―現場の雰囲気は?

石田 いつも高良くんの隣に椅子が置いてあったんですけど、あまり多くは話さなかったです。もちろん役柄のこととか話す時もあったんですけど、もともとお互い口数が少ない方だと思うので、話すというよりも2人で空見上げていたりしていましたね。
堤監督 空見上げてって…おじいちゃんとおばあちゃんじゃないんだから(一同笑)。

―本作はどんな方に観てほしいですか?

堤監督 どんな方の近くにも死があって、それはなかなか割り切れないものだと思うんですね。表現している方法として、激しいシーンや「え!?」ってなるシーンもあると思うんですけど、その先には死に対する不条理感や整理されない気持ちなどを優しく癒してくれる、溶かしてくれる。この作品はそういう清らかな気持ちにしてくれる力があると思います。誰でも、どこかのシーンには思いを寄せることができると思うので、たくさんの人に観てほしいです。

Profile

<高良健吾>
1987年11月12日生まれ、熊本県出身。『ハリヨの夏』(06)で映画初出演。『M』(07)で第19回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門特別賞受賞以降、話題作で様々なキャラクターを好演。11年にはNHK連続テレビ小説「おひさま」で第36回エランドール賞新人賞・テレビガイド賞、『軽蔑』にて第35回日本アカデミー賞新人俳優賞。12年には『苦役列車』にて第36回日本アカデミー賞優秀助演男優賞。13年には主演映画『横道世之介』にて第56回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞。15年は、NHK大河ドラマ「花燃ゆ」に出演、主演映画『きみはいい子』の公開も控えている。

<石田ゆり子>
1969年10月3日生まれ、東京都出身。88年、TVドラマ「海の群星」(NHK)でデビュー。00年、天童荒太のベストセラー小説を原作としたTVドラマ「永遠の仔」(NTV)に出演。映画『北の零年』(05)で第29回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。近年の主な出演作に、映画『サヨナライツカ』『おとうと』(10)、『死にゆく妻との旅路』(11)、ドラマ「MOZU」(14/TBS×WOWOW)、「さよなら私」(14/NHK)などがある。スタジオジブリ作品では、『平成狸合戦ぽんぽこ』(94)、『もののけ姫』(97)、『コクリコ坂から』(11)で声優を務める。

<堤幸彦>
1955年11月3日生まれ、愛知県出身。88年に故・森田芳光プロデュースのオムニバス映画『バカヤロー! 私、怒ってます』内『英語がなんだ』で映画監督デビュー。NTV「金田一少年の事件簿」(95)以降、従来のテレビとは一線を画する作品を生み出し、「ケイゾク」(99/TBS)、「池袋ウェストゲートパーク」(00/TBS)、「トリック」(00/EX)、「SPEC」(10/TBS)など立て続けに時代を象徴する話題作を世に送り出す一方で、若年性アルツハイマーを題材にした『明日の記憶』(06)ドキュメンタリードラマ「Kesennuma, Voices.東日本大震災復興特別企画~堤幸彦の記録~」(12/CS・TBSチャンネル)、知的障害者のグループホームを描いた『くちづけ』(13)など社会派作品も多く手掛けている。12年「悼む人」を舞台化、そして本作でメガホンをとる。

Storyストーリー

©2015「悼む人」製作委員会/天童荒太

悼む人(R15+)

【監督】堤 幸彦
【脚本】大森寿美男
【原作】天童荒太「悼む人」(文春文庫刊)
【出演】高良健吾、石田ゆり子、井浦 新、貫地谷しほり、椎名桔平、大竹しのぶ ほか

あなたは思い出す。誰に愛され、誰を愛していたか。

週刊誌記者・蒔野抗太郎(椎名桔平)は、事件や事故に巻き込まれて亡くなった人々を「悼む」ために全国を放浪しているという青年・坂築静人(高良健吾)と出会う。人の善意などすでに信じることができずにいた蒔野は、静人の不可解な行動=「悼み」に疑念を持つ。しかしこの行為こそが、静人と関わった様々な人たちの「生」と「愛」に対する考え方に大きな影響をもたらし、誰もが抱える生きる苦しみに光を照らしていく…。

悼む人(R15+)の公開情報

公開日 2015年2月14日(土)
監督 堤 幸彦
脚本 大森寿美男
原作 天童荒太「悼む人」(文春文庫刊)
出演 高良健吾、石田ゆり子、井浦 新、貫地谷しほり、椎名桔平、大竹しのぶ ほか
公式サイト http://www.itamu.jp/