Interviewインタビュー

映画『私の男』
浅野 忠信さん インタビュー

“花のすべてが淳悟にとっては重要でした。”
理屈を超えた禁断の愛を描き、2008年に直木賞を受賞した桜庭一樹さんによるベストセラー小説『私の男』が遂に映画化。互いに深い喪失と、ふたりだけの秘密を抱える父と娘。主人公・淳悟と花には浅野忠信さんと二階堂ふみさんが扮し、その濃密な関係をスクリーンに描き出した。

淳悟という役についてと、浅野さんご自身との共通点などがありましたら教えてください。

彼は初めから満たされていないというか…。満たされていないことにも気づいていない人というか。人々が受け取るであろう愛情を根本的に持っていない人だと思うんですね。虚しさと言うか空っぽな感じがあるんだけど、本人は気づいていないからだらしなく生きてしまう。それで、まあ僕は…淳悟ほどそういうところはないと思うんですけど(笑)。ただ、両親は僕を自由に育ててくれましたから、常識的なことに振り回されずに済んだというか割とフラットな生き方をしてこられたと思うんですね。そういう意味では淳悟みたいな人の気持ちも理解できました。でも、彼のことは理解してあげられるけれど、僕はああいう境遇では生きていないので共感できるとかではなく、脚本を読んだとき俳優として「自分ならばできるな」と思った役でした。

具体的にどのようなところが?

僕が20代の頃、こういう癖のある男を演じることが多かったと思うんですけど、30代で色んな役をやらせていただいて自分の中で明確になる部分がたくさんあったんですね。淳悟は、「もう一度僕が若い頃に与えてもらっていたような役を追求してみたいな」と思っていたものをぶつけられる役だったと思います。俳優としてこれを乗り越えられるだけの引き出しが今はある気がしたんですよね。

役作りはされましたか?

若い頃は役作りが何なのかが分かっていなかったから「役作りはしていません」なんてよく言っていたんです。でも、僕の中での作業で「役作り」っていう言い方をするのであれば、それはリアリティがあるように持っていくということですね。僕がお客さんとして映画を観る時に、「淳悟」っていうキャラクターを途中で我に返ることなくずっと観ていられるようなリアリティがあって欲しいんですよ。それにはどういう台詞の言い方をすればいいんだとか、どういう振る舞いをすればいいのかっていうのを考えるのが役作りじゃないかなと思っています。僕はその作業が大好きですし、その作業がないと浅野忠信らしさが出ないと思うので、そういう意味では役作りは結構やっていると思います。

この作品で、注目してもらいたいポイントなどがありましたら教えてください。

どのシーンというよりは、淳悟をやるうえでは花(二階堂ふみ)が欠かせなかったですね。まず花を演じてくれたふみちゃんがいて、彼女じゃなかったらあそこまでの淳悟は演じきれなかったと思います。花の成長していく姿というか、そのすべてが淳悟という役には重要なので、僕が映っていなくても花をじっくり見て欲しいなと思っています。

現場で二階堂さんと役についてなど話されましたか?

映画とかシーンのことに対してのディスカッションみたいなことをした覚えはないですね。でも、淳悟の存在がどこかにありながらふみちゃんに接していたと思うので、その間合いというか、接し方っていうのはすごく重要だったと思います。

淳悟にとって花はどんな存在でしょうか?

淳悟の持つ「寂しさ」を気付かせる存在と言うか…。何故なら花もそういう人間でそういう人間同士が出会って、お互いを見つめ合ったときに気付くことがあるのかもしれないと。たとえ花が傍にいても淳悟の寂しさは変わらないけど、似たような人間がいて、それこそ共感できるじゃないですけどそういう部分もあったのかもしれないですね。本質的には誰かが満たしてくれることではなくて、やっぱり自分で満たしていかなきゃいけない部分だと思うんです。ただそれを気づかせてくれるっていうのは、ある種満たしてくれるに近くて。|とはいえ、淳悟は最後まで満たされなくていいと僕は思っていたし、「満たされた」みたいな気持ちで演じていたら全くアプローチが変わっていたと思います。むしろどんどん失っていくというか、気付かないでどんどんダメになっていくような男を演じていました。

そのように演じられて、浅野さんご自身はどのようなお気持ちになりましたか?

僕は悲しい気分になったというよりは、「これでよかったんだ」というか。淳悟は自分にないものが何なのかは気づかないけど、「どうやら自分は普通じゃない」と。そこで色々ごちゃごちゃ言われて「うるさいな」と思うけど、でも何にも変わらないんです。でもそれで良かったんだなとも感じられたので、たぶんすっきりしていくような終わりだったと思います。

Profile

<アサノ タダノブ>
1973年11月27日、神奈川県生まれ。
2003年、ペンエーグ・ラッタナルアーン監督「地球で最後のふたり」で第60回ベネチア国際映画祭コントロ・コレンテ部門主演男優賞を受賞。また、セルゲイ・ボドロフ監督の「MONGOL」(主演)は、第80回(2008)米アカデミー賞で外国語映画賞にノミネートされた。2010年には木村大作監督「劔岳 点の記」と根岸吉太郎監督「ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜」にて、第33回日本アカデミー賞優秀主演男優賞をダブル受賞。2011年、ケネス・ブラナー監督「マイティ・ソー」でハリウッド・デビューを果たした。

Storyストーリー

©2014「私の男」製作委員会

私の男〔R15+〕

【監督】熊切和嘉
【原作】桜庭一樹(文春文庫刊)
【出演】浅野忠信/二階堂ふみ ほか

10歳で孤児となった少女・花(二階堂ふみ)は、遠縁にあたる淳悟(浅野忠信)に引き取られる。孤独だったふたりは、北海道紋別の田舎町で寄り添うように生活を送っていた。冬のオホーツク海、純白の流氷の上で起きた殺人事件。暗い北の海から逃げるように出ていく父と娘は互いに深い喪失と、濃厚な秘密を抱えていた…。

私の男〔R15+〕の公開情報

公開日 6月14日(土)公開
監督 熊切和嘉
出演 浅野忠信/二階堂ふみ ほか
劇場 神戸国際松竹
公式サイト http://watashi-no-otoko.com/