Interviewインタビュー

映画『そこのみにて光輝く』
池脇 千鶴さんインタビュー

“始まりは愛であって欲しい。”
いまから23年前、何度も芥川賞候補に挙げられながらも賞に恵まれず、41歳で自ら命を絶った不遇の作家・佐藤泰志。その死の前年に発表された唯一の長編小説にして最高傑作といわれる『そこのみにて光輝く』が遂に映画化。家族を支えるために過酷な環境に身を置き、愛を諦めてしまったヒロイン・千夏(ちなつ)を演じた池脇千鶴さんに話を聞いた。

千夏に対して共感できる部分と、できない部分があれば教えてください。

共感できないところはなかったと言っても良いかもしれません。自分とはかけ離れた人間ですし、状況も過酷さも違うんですけど、なぜか千夏が言う台詞は私も分かる。やはり良い台本を読むと「なるほどな」ってその時点で思わせてしまうというか、疑問がわかなくなるんですね。分からないっていうことは正直なくて。千夏に関して何が共感するかって言えば、曖昧なところですかね。とても芯の強い、みんなを支える女性ではあると思うんですけど、でも彼女すごくふわっとしていて。きちんと心が据わっているように思えるんだけれども、まだ恋にも揺れる・情にも揺れる、その癖自分の考えも分からず強がりを言ってバリアを張ったりするんです。

その千夏の持つ曖昧さというのは、池脇さんご自身にもありますか?

そうですね、いつだって完璧じゃないことは自分でも自覚してますから。なるべくいろんなことをきちんと成し遂げたかったりはするけど、でも、そうじゃないのが人間だとも思っているんです。そこで悩むこともいっぱいあるし。自分が今置かれている状況がいかに苦しくても、そこ以外がもっと苦しいとすら想像する千夏の「臆病さ」っていうのも私はよく分かる。本当は普通の生活をしたほうがうんと楽だったりするかもしれないし、ちょっとした周りの人の目を気にしなかったら、もっと堂々と生きられるかもしれない。だけど、その方が怖い。自分にしか分からない世間とのズレって絶対あるから。そういう千夏の持つ細やかな悩みっていうのが、すごくよく分かるんですよね。

達夫に対して「私と結婚したいの?」という台詞がありました。

期待はありますよね。(映画のポスターなどには)「愛を諦めた女」ってあるけど、絶対淡い期待はずっと持ってて。そこがちょっと乙女なんですけど、彼女はやはり普通の幸せも諦めきれていない女というところがあって、素直に言ってもらいたかったんだと思います。

作中でも描かれている「家庭を作ること」「結婚」ということに関して、池脇さんご自身は何が大切だと考えますか?

私自身は、本当のことを言うとすべてではあるんですよ(笑)。始まりは愛であって欲しい。でも経済力は必ず必要。「私は二人で貧乏してても幸せ」っていうのは、ちょっと難しいと思っているので、できればあまりそういう苦労は背負いたくないんです(笑)。もう私も三十過ぎてそんなことよく分かるじゃないですか?お互いの家族も一緒になるっていうのもあるので、すべてをなるべく自力で守れる力を備えたいと思いますよね。それは二人合わせてね。今の私では駆け落ちのような、押し切る様な形は現実的ではないですね。

では、家族とはどういう存在だと思いますか?

どうなんでしょうね…。家族こそ腐れ縁みたいに思いますけどね。家族だからこそ、普通は流せることでも流せなかったり、イライラしたり、思わずぶつけてしまったりとか。うちはアメリカンなファミリーじゃないから、いっぱいケンカしてっていうのは私にとって気恥ずかしいし、言わなくて良いことを言っちゃって余計に溝が深まりそう。近いからこそ難しい。でも、それもひとつの支えにはなってくれていますね。きっとそこには帰る場所があるし、家族がいるから捨身にならず、自分でちゃんと胸張って生きようって思えます。

演じる中で、「そこのみにて光輝く」というタイトルの「光」の瞬間はどこだと感じられましたか?

やっぱりこの人(達夫)に「愛されるかもしれない」「愛していいかもしれない」っていう恋心でしょうか。それが直接家庭に結びつくかは、怖いから想像もしたくないぐらいなんですけど、そこかなと思いますね。

Profile

<イケワキ チヅル>
1981年大阪府出身。
1997年、8代目三井のリハウスガールに選ばれデビュー。市川準監督作品『大阪物語』(99)でヒロインに抜擢され、キネマ旬報日本映画新人女優賞ほか数々の新人賞を受賞する。以来、大作から気鋭の監督作品まで多岐にわたる役柄を演じる実力派。

Storyストーリー

©2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会

そこのみにて光輝く

【監督】呉美保
【原作】佐藤泰志(河出書房新社刊)
【出演】綾野剛/池脇千鶴/菅田将暉 ほか

仕事を辞め目的もなく毎日を過ごしていた佐藤達夫(綾野剛)は、粗暴だが人懐こい青年・大城拓児(菅田将暉)と知り合う。誘われるままについて行った一軒のバラックで、達夫は拓児の姉・千夏(池脇千鶴)と出会い、やがて二人は距離を縮めていく。だが千夏は家族を支えるため、過酷な日常を生きていた。それでも千夏への一途な愛を貫こうとする達夫。彼のまっすぐな想いに揺れ動かされる千夏だが―。
函館の短い夏を舞台に紡ぎ出す、運命の出逢いと家族の物語。

そこのみにて光輝くの公開情報

公開日 公開中
監督 呉美保
原作 佐藤泰志(河出書房新社刊)
出演 綾野剛/池脇千鶴/菅田将暉 ほか
公式サイト http://www.hikarikagayaku.jp/
劇場 シネ・リーブル神戸