Interviewインタビュー

映画『ふたりの旅路』
桃井かおりさん、イッセー尾形さんインタビュー

「失くしただけじゃなくて、やれることがあるんじゃないか」
思い出にだって未来があると感じさせてくれる素敵な映画です

ラトビアの首都・リガとその姉妹都市にあたる神戸市で撮影が行われた、日本とラトビアの初共同製作映画『ふたりの旅路』が6月24日(土)より公開される。本作は、阪神・淡路大震災をきっかけに自分の殻に閉じこもったまま1人淋しく神戸で暮らしていたケイコ(桃井かおり)が着物ショーに参加するためラトビアを訪れ、そこで震災で行方不明になっていた夫(イッセー尾形)と不思議な再会をするおとぎ話。主演を務めた桃井かおりさんとイッセー尾形さんに、撮影秘話や本作に込めた思いなどについてお聞きした。

―数多くの姉妹都市を持つ神戸市がそのうちの一都市とタッグを組んで映画を製作するのは初の試みだということですが、撮影を振り返ってみていかがですか?

桃井 マーリス・マルティンソーンス監督とご一緒するのは今回で3度目なんですけど、毎回ちゃんと分かっていないまま撮影が始まるんです。でも出来上がると、これは言葉で打ち合わせしても分からないだろうな、やってみるしかないんだなと毎回思います。今回は特にそうでしたね。そして、日本の俳優は私ばかりなのでそろそろ違う役者さんを紹介しなければなということでイッセーさんにオファーしました。リガの街をフルに貸していただいて、大々的な撮影でしたね。

イッセー かおりさんとは30代の頃から舞台で共演していて、日本・ドイツ・イギリスでもやりましたし、ロシアでは『太陽』という映画も撮影しました。かおりさんから映画をやらないかと言われて、内容は後から聞いたんですけど、かおりさんとなら何であれ大丈夫だろうと。2人がいればどの世界でも展開できる確信がありました。同士でもあり戦友です。リガは本当におとぎの国のようなファンタスティックな街。この衣装を着て歩くだけで気分が良いんですよ。誰でもない感じになれて、あんな解放感は生まれて初めて体験しました。台本は一応あったんですけど、好きにやっていいよって監督が言ってくれていたので、本当に好きにやらせていただきました。しかもそれがほぼノーカットで使われていて、この監督は太っ腹だな、根性あるなとびっくりしましたね(笑)。

―やはりアドリブも多かったんですか?

桃井 2人芝居の時はほとんど私たちが即興でやりながら戯曲を作っていって。その戯曲が結構文学的で、そういうセンスの高い天才的な俳優さんって日本にも海外にもあまりいらっしゃらないと思うんです。俳優が作品を作っていくということをイッセーさんと居るといつも味わわせてもらいますね。あるシーンでは「セリフは言っても言わなくてもいいんだよね?」ってイッセーさんがぼそっとおっしゃって、「え、言わなくてもいいんですか!?」「言わなくてもいいんじゃない?言いたくなったら言えば」って(笑)。そういうやりとりを2人でしながら撮影していました。「ここで何か喋って」って言われた時はお互いに感じたままにセリフを言ったりね。

イッセー それで成立する映画なんだよね。言葉の意味じゃなくて、イメージや感覚、五感が一番大事だった。自分でもこんなことやってたのかと出来上がった映画を観て思いましたね(笑)。何事にもいろんな選択肢があって、普通はどっちかを選びながら生きていく思うんですけど、かおりさんはこの映画を撮る時にも可能性の扉を全部ちょっとずつ開けていくんですよね。たくさんの扉から顔を覗かせて、万華鏡のように変化するいろんな表情を見せてくれる。これがかおりさんの素敵なところですよね。

桃井 この映画は理解して噛み砕いて演じるのではなく、監督とスタッフを信じ、私たちも信じてもらって、一緒に作り上げた作品。これは誰とでも出来ることじゃないですよね。

イッセー アドリブにも暗黙のルールがあったんですよ。とにかく長引かせよう、そしたら自然といろんなものが出てくるからって(笑)。

―お互いの即興芝居の中で「そうきたか!」と感じるシーンもありましたか?

イッセー そればっかりですよ(笑)。

桃井 「あ、そっちか!」の連続でしたね。

イッセー かおりさん、あるシーンで僕に「憎たらしい」とか言ってたよね。その時はどうしようかなって思ったのを覚えてます。お互い何が言いたいのかわからない感じなんだけど、後から見ると夫婦ってあんなもんだなって。夫婦喧嘩のシーンはスリリングで面白かったなぁ

―外国での撮影は、苦労したことも多かったのでは?

桃井 台本は、ラトビア語を英語に直して、その英文を日本語に訳していて。その間でちょっとずつ訳が変わってしまってるんですよね。変だなと思って確かめると反対の意味で訳されていたり(笑)。だから、ここはこういうシーンなんだろうなっていう直感でいくしかなかったんですよね。

イッセー 2人で即興で作りながら撮影したって言っているから自由度が高いように思われているかもしれないけど、どのシーンでもカメラマンが事前に決めた画角の中でお芝居をしないといけなかったんです。「いいじゃないか、ちょっとくらい」って思っていたんだけど(笑)、この枠の中でやってくれとガッチリ決まっていました。映画を観て初めて、これがやりたかったんだって分かりましたね。お芝居も撮り方も自由だとぐちゃぐちゃで別の映画になってしまっていたんだなと。

桃井 世界がきっちり決まっていたからこそ、私たちがアドリブとかお芝居で遊べたよね。本当は台本もガッチリしたものだったので、その通りにやっていたら堅い映画になっていたと思います。

イッセー 舞台ではいろんな世界を作ってきたけど、映画でここまで作れたのは初めてだったので嬉しかったですね。

―桃井さんは阪神・淡路大震災を経験した女性を演じられていますが、役作りはどのようにされましたか?

桃井 以前出演した映画の影響もあり、今回どう演じるかというのはすごく気にしていました。震災から4年が経ってやっと涙が出るようになった。現実的に時間を止めて元気になるためにどんなことでもして、やっと元気になって元の生活に戻るんだけど、やっぱり喪失感を感じてしまったり、どう生きていけばいいのかが分からなくなっている。でもこの状況をどうにかしないといけないと葛藤している。その気持ちは取り入れたいと思っていました。

―最後に、出来上がった作品をご覧になられた感想と、見所を教えて下さい。

桃井 さっきもイッセーさんと「本当に良かったよね」って話していたんですけど、すごく面白かったです。アーティスティックで品が良く高質な映画。自信を持ってオススメできます。

イッセー かおりさんが演じるケイコはラトビアに行って、そこで旦那らしき人に出会い、どう接するべきか悩むわけです。その男を旦那だと認めてしまうとそれが違うと分かって夢が消えちゃったら怖いから、見ず知らずの他人のように近寄っていくんですね。その時の近寄り方が、彼女が過ごしていた、失ってしまった日常の延長線上にあって、そこで日常を繰り返しているんです。そのことに自身で気が付いて、止まってしまった時を自分の時に戻して、もう一度生き直す。ケイコの場合はそういう風にして立ち直ったんだというのを描いて、大切な人を失ってしまった人や傷ついている人に、優しく手を差し伸べる映画だなと思いました。

桃井 失くしただけじゃなくて、やれることがあるんじゃないかって。思い出が育つような、思い出にだって未来があると感じさせてくれるような、素敵な映画です。

Profile

<桃井かおり(画像 右)>
1951年生まれ、東京都出身。71年に『愛ふたたび』、『あらかじめ失われた恋人たちよ』で映画デビュー。『幸福の黄色いハンカチ』(77)では日本アカデミー賞助演女優賞をはじめ、その年の映画賞を総ナメ。その後様々な映画に出演し、現在は活躍の場をハリウッドにも広げている。

<イッセー尾形(画像 左)>
1952年生まれ、福岡県出身。高校卒業後に演劇活動を開始し、81年に日本テレビの『お笑いスター誕生!!』で金賞を獲得。国内のみならず海外でも活躍し、ドラマ・映画など数多くの作品に出演する。近年では映画『沈黙 -サイレンス-』(17)など。

Storyストーリー

©Krukfilms/Loaded Films

映画『ふたりの旅路』

【監督・脚本・編集】マーリス・マルティンソーンス
【撮影】ギンツ・ベールズィンシュ
【出演】桃井かおり イッセー尾形 ほか

KIMONOが、あの人を連れてきてくれた。

あることをきっかけに自分の殻に閉じこもったまま1人淋しく神戸で暮らしていたケイコ(桃井かおり)は着物ショーに参加するために訪れたラトビアの首都・リガで震災で行方不明になっていた夫(イッセー尾形)と不思議な再会をする。愛する人を失くした男女が、すれ違いながらもめぐりあう、おとぎ話。

映画『ふたりの旅路』の公開情報

公開日 6月24日(土)から順次公開
監督・脚本・編集 マーリス・マルティンソーンス
撮影 ギンツ・ベールズィンシュ
出演 桃井かおり イッセー尾形 ほか
公式サイト https://www.futarimovie.com/