Interviewインタビュー

ミュージカル『ミス・サイゴン』 
知念 里奈さん インタビュー

”「これは伝えなきゃいけないことなんだ」という戦争を題材として扱うことの使命を感じます”

初演から24年間、ベトナム戦争の動乱の時代を描き続けるミュージカル『ミス・サイゴン』の大阪公演が12月30日から行われる。
サイゴンのキャバレーで出会った米兵クリスとベトナム人少女キムは深く愛し合うも、サイゴン陥落の混乱の中で別離する。幼い息子を抱え、いつの日かクリスが迎えに来ることを夢見るキムだが、それを知らないクリスはアメリカでエレンと結婚する…。前回までの10年間キム役を演じ続け、今回はエレン役として本作に挑む知念里奈さんに作品にかける思いを伺った。

―長年演じたキムから役が替わり、今回はエレン役となりましたね。

2年前にキムをやらせてもらった時でちょうど10年間やらせていただいたことになり、その10年間で私の人生も変化しました。やはりキムは17歳という役ですし、年齢を重ねていくと序盤のシーンを演じるのがすごく難しくなってきて。何も知らない女の子が母親に変わっていくというお話なので、2年前の公演ではもう自分はやれることを全部をやり切り、これで最後という気持ちでやらせてもらいました。「この大好きな作品とお別れなんだ」と思いながら千穐楽を迎えたので、その時には自分がエレン役をやるとは全く思っていなかったですね。

―そこからエレン役となった経緯は?

今年また『ミス・サイゴン』を上演するとなった時に、「エレン役でオーディションを受けてみないか」と言ってもらって、そこから考え始めました。キムとは全然違うものを求められる難しい役ですし、きっとお客様にはキムのイメージがあるから、そんなに時間も経たずにアメリカ人になって出てくるのはどうなんだろうって(笑)。色々考えたんですけど、オーディション曲の「メイビー」というエレンのソロナンバーを練習し始めたら、「エレンってこんな気持ちでいたのか」と彼女の心理にすごく興味が湧いてきました。すごく厳しいオーディションなので受かるかどうかはわからないけど、とにかく受けて、「ご縁があればやれるかな」なんて思っていたので、この度の運びにすごく感謝しています。一度さよならした作品に全然違う役で出演するので「はじめまして」という気持ちでお稽古に参加させていただきました。

―エレンの気持ちにはすんなり入っていけましたか?

お稽古がすごく面白かったんですよ!自分が一生懸命キムをやっているときは他の役のことは考えたことがなかったんですが、実際はエレンも戦争の被害者で、夫であるクリスを助けて支えたくて、夫婦として最善の道を選んだ結果、一緒にバンコクへ行ったんだと気づいたんです。普通の感覚だと旦那さんが異国に自分の子どもがいるなんてとんでもない状況なんですけど、でも彼女って全部許すじゃないですか。ある時演出家が「キムが息子のタムを愛したように、エレンはクリスを愛している」って言ったんですね。その時にやっと納得がいったんです。キムにとってタムはこれ以上ない存在で、エレンがクリスに対して本当に同じように愛情を抱いていたらそうするだろうなと、その演出をもらってからすごく納得がいき演じやすくなりました。

―キムとエレンではどちらが自分に近いと感じますか?

人間って複雑なので、2人いないと自分にはならないですね。舞台って何かを具現化しているので特徴が前面に出されていますけど、きっとキムにもエレンのようなところがあるだろうし、エレンだって子どもを産めばキムのような選択をしたかもしれない。作品の中で全然違う役割をするんですけど、あまりかけ離れている2人だとは思っていないんですよ。どちらも強くて芯があって、女性であり母性もあって…。今はとにかくエレンを理解してその気持ちになれるように努めています。

―本作だけでなく『レ・ミゼラブル』でも主要キャストでの出演を続けていますね。

『ミス・サイゴン』や『レ・ミゼラブル』は、毎回オーディションをして、日本だけでなく外国側のスタッフからOKをもらわないと舞台に立てない作品なので、そこで選んでいただけるのはすごく嬉しいことですね。それに、いつでも不安なんですよ。「自分で大丈夫なのか、ちゃんとできているのか」って。そんな中でオーディションを経て「あなたがやってください」と言われるということはすごく心の拠り所になります。

―今年でデビュー20周年となりますが、当時は今の状況を予測していましたか?

考えていなかったです。20年前、15歳の頃は1人で上京して寂しかったし、今こんな風に東京で子どもも交えてご飯食べてるなんて思わなかったな。ちょっと感慨深いですね。続けてこれて本当に感謝です。もう歌手活動より舞台の方が長いんですよ。好きなんですよね。「なんでキムをやったのにエレンもやるのか」と言われたりもしたんですけど、やりたいんですよね。ただそれだけで。きっとそう言いながら続けられるところまで続けるんだろうなって思います。

―今改めて思うこの作品の魅力は?

音楽もストーリーも素晴らしく、豪華なセットやダンスもたくさんあって、エンターテインメントとして素晴らしいですよね。でも親子や男女などいろんな形の愛情と戦争がテーマです。世界のどこかでは今も戦争があるという中で、戦争を知らない世代や知っているけど忘れてしまっている皆さんにエンタメを通して知ってもらいたいですね。私は息子が3歳の時からこの作品を観せていて、刺激的な描写も多いので「早すぎるんじゃないか」とも言われますが、そういう衝撃的な出来事も事実なんです。私は親として自分の判断で息子にこれを観せてもいいと思って観せていますし、それはそれぞれに考え方があるとは思うんですけど、こういうものを通して学ぶことってあるんですよね。「これは伝えなきゃいけないことなんだ」という、戦争を題材として扱うことの使命を感じます。

―息子さんの反応はいかがでしたか?

息子が3歳の時、私はキムを演じていたので「ママ、ヘリコプター乗れなくて悲しかったね」とかすごく可愛いことを言ってくれて、「3歳でもわかるのか」って思いましたね。この前、キムがエレンに「息子を引き取ってよ」って言うシーンを車で練習していたら、私がキムだった時は「本当にキムは可哀想」って言ってたのに「キムって急に息子を引き取ってって図々しいよね」って言い出して(笑)。彼も私と一緒に見方を変えているんですよね。一番近くにいる味方です。うちは観劇を一緒にすることが多いので、これを観た後に戦争映画を一緒に観て「ベトナム戦争ってこういうことなんだよ。サイゴンと一緒だよ」って言うと、そこでリンクできるんですよね。この作品に限らず、歴史を扱っている作品は子どもと観ると、後につながっていきますね。

―読者にメッセージをお願いします!

お正月なのに重いですけど、ミュージカルの中でも大型と言われる大作です。演じるためにとてもエネルギーのいる作品なので、お客様にもそれを受け取ってもらって、2017年の活力に変えてもらえたらと思います。本当に多くのお客様に観てほしいなと思っております。

Profile

<知念 里奈>
1981年2月9日生まれ、沖縄県出身。1996年にシングル『DO-DO FOR ME』で歌手デビューし、翌年『第39回日本レコード大賞』で最優秀新人賞を受賞。2003年『ジキル&ハイド』の出演以降、多くの舞台・ミュージカルで活躍する。ミュージカル『レ・ミゼラブル』ではコゼット役、エポニーヌ役、ファンテーヌ役と役替りしながら2005年から出演を続け、2017年上演予定の公演にも出演が決定している。『ミス・サイゴン』はキム役として2004年に初出演、役替りを経て今回で5回目の出演となる。

Storyストーリー

ミュージカル『ミス・サイゴン』

【出演】市村正親、駒田一、ダイアモンド ユカイ/笹本玲奈、昆夏美、キム・スハ/上野哲也、小野田龍之介/上原理生、パク・ソンファン/知念里奈、三森千愛/藤岡正明、神田恭兵/池谷祐子、中野加奈子 ほか

『ミス・サイゴン』は奏でる―― あなたが、命をかけて貫いた愛

ミュージカル『ミス・サイゴン』の公開情報

大阪公演期間 2016年12月30日(金)~2017年1月15日(日)
キャスト 【出演】
市村正親、駒田一、ダイアモンド ユカイ/笹本玲奈、昆夏美、キム・スハ/上野哲也、小野田龍之介/上原理生、パク・ソンファン/知念里奈、三森千愛/藤岡正明、神田恭兵/池谷祐子、中野加奈子 ほか

【製作】東宝
会場 梅田芸術劇場メインホール
(大阪府大阪市北区茶屋町19-1)
料金 S席 13,500円、A席 9,500円、B席 5,500円
※全席指定・税込
問い合わせ 梅田芸術劇場 
TEL 06-6377-3800